北へ。20th anniversary 後援サイト
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北へ。アンソロジー
<大切な記念日>
<大切な記念日>
「う~ん、やっぱりこっちは寒いわね」
フォートローダーデール・ハリウッド国際空港から飛行機を2回乗り継ぎ、新千歳空港まで実に23時間……。11月27日、現在の気温は7度。11月のハリウッドの気温は約20度なので気温差は約13℃……。
「この寒さ、やっと札幌に帰ってきたんだって実感するわね。ただいま……北海道」
リュックの中から取り出した上着を羽織りながら呟く。久し振りに戻った地元の寒さに懐かしさと嬉しさを感じながら一歩一歩を踏みしめる。
「ひとつ確認させて! アナタさっきからどうして黙ってるの? これじゃまるで私、ずっとブツブツ独り言を喋っている変な人みたいじゃない!」
私の数歩後ろを歩く彼に向かい質問を投げかける。
「あぁ、ごめん……1日近くのフライトと時差ボケで頭が上手く回っていなくてさ……それに誰かさんが重い撮影機材を全部俺に持たせるからじゃないかな?」
彼が少し息を切らせながら言った。
「もう、それぐらいで音を上げてどうするの? そんなんじゃ私の助手は務まらないわよ」
とは言えハリウッドと日本との時差は17時間。それに加え、長距離の移動。実はさすがの私も結構ヘトヘトだ。
「ほら頑張って、もうちょっとだからね」
そっと彼に向って手を差し出す。
「了解。どこまでもお供させていただきますよ、朝比奈監督」
「素直でよろしい」
彼の大きな手が私の手を握り返した。私の右手から彼の温かさが伝わってくる。とても心地よい感覚でじんわりと心まで温かくなっていくのを感じる。
「どうしたの? 少し顔が赤いようだけど大丈夫?」
「べ、別に何でもないわ。さぁ先を急ぐわよ!」
彼の持っていた荷物をひとつ肩に背負い、再び歩き出す。
「ちょっと待ってよ、京子」
そんな彼を尻目にターミナルビルの地下1階にあるJR新千歳空港駅を目指す。汽車にさえ乗ってしまえば後は最寄りの駅で降りればすぐに自宅だ。
「やっとゴールが見えてきた……。後は汽車を待つばかりだね」
「そうね、そういえばアナタの口から汽車って言葉が出るのにも随分慣れたわ」
北海道では電車のことを汽車と呼ぶ人が多い。札幌で生まれ育った私にとっては別に当たり前のことだ。だけど内地出身の彼からすれば最初は不思議に思ったようだ。汽車から連想されるものといえば、石炭を燃料にして動く蒸気機関車で、私たちの言う汽車は「電車」なのだ。
そんな彼の口から自然と「汽車」という言葉が出たということは、彼も随分と北海道に馴染んできた証拠なのだろう。「汽車」という言葉ひとつからそんなことを考える。ほんの些細なことだけれど、自分と同じ色に染まってくれたのだと思うととても嬉しく感じてしまう。
「どうしたの、京子? ひとりニヤニヤして……」
「べ、別に何でもないわよ。さ、汽車が来たわ。さっさと乗るわよ!」
※
「やっと戻ってきた……さすがに疲れたよ」
目の前には「メゾン・サブリナ」と書かれた見慣れたマンション……。数か月振りに帰ってきたのだ。
「お疲れ様。やっぱりここに帰ってくるとホッとするわね。あ、でも部屋に戻るまでは気を抜かないでね。ここまで来てカメラ落として壊れたりしたら洒落にならないんだから」
誰が言い出したかは知らないけれど、家に帰るまでが遠足ってよく言うわよね? 撮影旅行も家に帰るまでが撮影旅行なのだ……って、別にただの帰省で旅行ってわけではないんだけどね……。
メゾン・サブリナ……。大学生の頃から住んでいる私の家。今は私達の家といった方がいいだろうか? 現在は映画監督や撮影の仕事で海外や内地に滞在していることも多いため、家を空けることも頻繁にある。正直、拠点を東京に移してしまった方が何かと便利なのは言うまでもない。だけどここを引き払おうと思ったことは一度もなかった。
なぜならここが、北海道、札幌が朝比奈京子の原点だから。そして何より、アナタと出会った場所だから……。
アナタと出会っていなければ映画監督の朝比奈京子は存在しなかっただろう。おそらくは井の中の蛙のまま、シネ研メンバーとも上手く向き合えずに映画監督への道も閉ざされてしまっていたに違いない。多少才能があったとしても、映画は自分ひとりで作るものじゃない。様々なスタッフや役者がひとつになってこそ素晴らしい作品が出来上がるのだ。
昔の私はそんな簡単なことにすら気付けていなかった。アナタに会って分かった。たとえ夕焼けというそれだけでも綺麗な景色だったとしても、そこに雲があるからさらに夕焼けが綺麗に見えるってことが……。ただの夕焼け(自分)だけではなく、様々な雲(スタッフや役者)があるから私は輝けるのだ。たくさんの協力があって朝比奈京子は成り立っているのだ。
それに気付かせてくれたアナタに出会った街、札幌……。私の原点。だから私はこれからもずっと、何があってもこの場所に必ず帰ってくるのだ。
「う~ん、やっぱり住み慣れた家はいいわね」
荷物を床に置き、両手を伸ばし伸びをする。
「お疲れ様、何か飲む? コーヒーでも淹れようか?」
彼が気を利かせてキッチンに向かおうとしている。
「ありがとう。あ、でもコーヒーあったかしら?」
この仕事を始めてからというもの、長期間家を空けることが多くなったため、缶詰のような日持ちのするもの以外は極力ストックしないようにしている。買っておいたところで、次に帰ってきた頃には賞味期限をとうに超えてしまっていることがほとんどだからだ。
「ほんとだ。ゆっくりしたいのは山々だけど、まずは買い物に行かないとだね」
「そうね、年明けぐらいまではこっちにいる予定だから色々と必要ね。それに長旅で疲れたから甘いものでも食べたいわね。そうと決まれば、出掛けるわよ!」
自宅に帰ったのも束の間、私達は再び札幌の街に飛び出した。
※
地下鉄澄川駅で汽車を降り、そこから徒歩で5分程歩くと、軒下が青い幌で覆われたケーキ屋さんが見えてくる。そこには「STELLA☆MARIS」と書かれている。
ケーキハウス、ステラマリス……。私の知っている限りでは2000年くらいからあるケーキ屋さんで、以前から何度も足を運んでいる。このお店のケーキは美味しいだけではなく安全であることはもちろん、心が満たされるだけではなく、身体にも優しいことモットーに作られており、様々なコンテストでもたくさんの賞を受賞しているのだ。
もちろん味の好みは人それぞれだけれど、私にとっては大好きなケーキ屋さんなのだ。
「ステラマリス……確か海の星、北極星って意味だったよね」
「そうよ、良く覚えていたわね。私ね、このステラマリスっていう音の響きが好きなの。もちろんここのケーキも大好きだけど」
北極星は見ている場所の緯度とほぼ同じ高さに輝いている。そして真北にあって動かない星なので、夜に方角を知るための目印として昔は航海士達の間では道標とされていたというのは有名な話だ。
いつまでも変わらずその場所に存在し、人々に慣れ親しまれている……。きっとこのステラマリスも地元の人達にとってはそういう存在なのだろう。私の作る映画もいつかそんな存在になれたらいいな……。
「いつか京子の映画も北極星みたいに輝く時がきっと来るよ!」
不意に彼からそんな言葉が放たれた。時々思うんだけど、アナタって私の心が読めるんじゃないかしら? と思うことが良くあったりする……。
「ひとつ確認させて! それって今の私の映画じゃダメってことかしら?」
「い、いや、そういうつもりじゃなくて……」
照れ隠しについつい意地悪なことを言ってしまう。ホント我ながら可愛くないなぁ、私。
「まぁいいわ、それより寒いから中に入るわよ」
店内に一歩入ると暖かさと同時にケーキ屋さん特有の甘い香りが鼻をくすぐる。これだけでも幸せを感じてしまう。
「いらっしゃいませ。おや? 朝比奈さん、どうもご無沙汰しています」
店の奥から顔を出したのは、ステラマリスの店長である、隅田和男(すみだかずお)さんだ。
「こんにちは、店長。こちらこそご無沙汰しています。お元気そうで何よりです」
「おかげさまで今日も元気に営業中だよ、奥さん!」
「だから店長、奥さんじゃないですって!」
隅田さんはとても人当たりが良く、常に話しかけやすい雰囲気が漂っているので何度か通っている内に自然と会話ができる間柄になっていた。すごく親しみやすい店長さんだ。そのためか、店長には来店の度に様々な話を聞いてもらっている。もちろん私が映画監督という職業に就いていることも話している。普段はあまり話したりはしないのだけれど、店長さんはとても信頼できる人なのでついつい甘えて相談に乗ってもらっているのだ。
ちなみにお店の壁には私のサインが飾られていたりする。だからと言って私が来店したところで私が映画監督の朝比奈京子だと気付く人は全くいない。まだまだ私なんてその程度の知名度なのだ。いつかは北極星のように輝いてやるんだから……。
「いつ札幌に戻って来たのですか?」
「ついさっきです。家に荷物を放り込んですぐに来ちゃいました」
「疲れているでしょうに、それは何とも光栄なことだね、奥さん!」
「もう、だから奥さんじゃないですって……まだ……」
最後の方は聞こえないようにボソッと呟く。正直なところ、アナタって私のことどう思っているのかしら……。
「ご無沙汰しています、店長」
私の気持ちを知ってか知らずか、彼は店長と他愛のない会話を始めた。
「本日もこちらでお召し上がりですか?」
「そのつもりです。奥の席いいですか?」
「もちろん! ごゆっくりどうぞ」
ステラマリスの店内には喫茶スペースが8席あり、店内でケーキを食べることも可能だ。さっそく席に着くとケーキセットを注文する。飲み物はコーヒー(有機栽培コーヒーとカフェインレスコーヒー)、紅茶(有機栽培のダージリン)、リンゴジュース(余市産)、グレープジュース(余市産)、イチゴミルク、バナナミルクが注文できる。ケーキは店内で売っているものなら基本的にどれでも注文できるようになっている。
程なくすると二人分のケーキセットがテーブルに運ばれてきた。ケーキの甘い香りとコーヒーの芳醇な香りが辺りを包み込む。何とも幸せな時間だ。ちなみに私はタルトペイザンヌとホットコーヒー(有機栽培コーヒー)、彼も同じくホットコーヒーとさっぽろ黒豆タルトを注文した。
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「う~ん、何度味わっても幸せな時間だわ。じゃあさっそくいただきましょうか」
「そうだね。それじゃ無事札幌に帰ってきたことを祝して……乾杯」
お酒じゃないのでグラスを合わせるわけにはいかないので、お互いに軽くコーヒーカップを掲げるとコーヒーをひとくち口に含んだ。喉の奥に温かいコーヒーが沁みわたってゆく……。
「おいしい……ねぇ、覚えてる? 前にここで話したこと」
「京子が昔ハマったコーヒーがあって、ここのコーヒーがその味に近いって話?」
「そうそう、よく覚えていたわね」
何気なく話したことなのにちゃんと覚えていてくれる、些細なことだけれど彼のそういうところが私はたまらなく好きだ。悔しいから口にはしないけれど……。
「今はね、ここのコーヒーが私のナンバーワンね。きっとこれからもね」
味はもちろんだけど、誰と一緒にどこで飲むのかが重要なのだ。何度もステラマリスで飲むコーヒーにはアナタとの思い出がたくさん詰まっている。そしてこれからもずっと続いていくと信じている。だから私にとってはここで飲むコーヒーがナンバーワン、いえオンリーワンね。って何かの歌詞みたいね……。
「そっか、じゃあ俺にとってもオンリーワンだよ、きっと」
何だか私の心の中を見透かされたかのような返答が返ってきた。べ、別に嬉しくなんかないこともない……んだけれど顔には出してやらない。ホント可愛くなくてゴメンね……って何ニヤニヤしてるの? やっぱり見透かされてる?
恥ずかしさをコーヒーと一緒に飲み込み、ケーキを頬張る。
「うん、安定の美味しさね。コーヒーがブラックだから余計に甘く感じておいしいわ」
ペイザンヌとはフランス語で「田舎風」という意味らしい。ふわっとしたシブーストの表面にはキャラメリゼされた砂糖が香ばしい香りを漂わせている。その下には洋梨のクラフティが敷き詰められており、クラフティと香ばしいカラメルが見事にマッチしている。クラフティというのはフランスのリムーザン地方の家庭的なお菓子だと何かの本で読んだ記憶がある。おそらく、田舎風というのは家庭的ということなのだろう。
「それじゃ俺もいただこうかな」
そう言うと彼はさっぽろ黒豆タルトを食べようとフォークを手に取った。
「あ、ちょっと待って」
私は黒豆タルトを食べようとする彼を制止した。タルト上部のコーティングされたムースがとても綺麗で、まるで鏡のように私の顔を映し出している。その美しいフォルムをもう少し眺めていたいと思ったからだ。
「う~ん、まさに芸術よね。大きな黒い真珠みたい。食べるのがもったいないわ」
さっぽろ黒豆タルトは「さっぽろスイーツ2013」のグランプリを受賞したケーキで、上部は黒豆入りのムース、真ん中はスポンジ、そして下は黒豆風味のクッキー生地のそれぞれ食感を楽しむことができるのも魅力のひとつだ。どちらかというと甘さは控えめなので甘いものが苦手という人にもおすすめのケーキだ。
「あの……そろそろ食べてもいいかな?」
いけない、すっかり忘れてた……。
※
おいしいケーキとコーヒーでお腹も心も満たされ、長旅の疲れも吹き飛んだ頃、不意に店長さんがこちらにやってきた。
「お二人とも、コーヒーのおかわりはいかがですか? サービスしときますよ」
「あ、ありがとうございます。でもいいんですか?」
「もちろんです。実は偶然にも今日11月27日はこの店がオープンした日なのです。そしてちょうど25周年でもあるんですよ。普段ご贔屓にしていただいているのでささやかなお礼です」
なんて偶然。偶然帰国した日がステラマリスのオープン記念日だったなんて。そんな記念日に立ち会えた私達は幸せ者だ。
25年……。口にしてしまえばたったの数秒……。だけど25年もの間ずっとこの場所に存在し続けるということがどれだけ難しいことかは私の想像を絶するだろう。ましてや札幌ともなればライバル店も多く、数年店舗を存続させるのも大変なぐらいだ。そんな中、25年もの間お店を続けられているということは、それだけステラマリスが地域の方々に愛されているということに他ならない。
「おめでとうございます! こんな素敵な日に来店できて光栄です」
「こちらこそ今日帰国したばかりで来ていただいて嬉しい限り。これも何かの縁だね、奥さん!」
「だ・か・ら、奥さんじゃないですって」
いつも通りのこの温かい雰囲気が私はたまらなく好きだ。この温かさが25年も続いてきた秘訣なのかもしれない。
「あのさ、京子……ちょっといいかな?」
急に彼が改まった面持ちで席を立った。
「どうしたの?」
「大事な話があるんだ……。ステラマリスが25周年という記念日に偶然帰国ってさ、ほんとにすごい縁だよね。その縁にあやかるわけじゃないんだけど、記念日をもうひとつ増やしたいと思って……」
彼はそこまで話すと一呼吸置いた。そして話を続ける。
「俺は映画監督、朝比奈京子の助手としてずっと生活を共にしてきた。だけどこれからは助手としてだけじゃなく、人生のパートナーとしても京子と一緒に歩いていきたい……。だから俺と結婚して下さい!」
何を言い出すのかと思えば、そっか……結婚か……って、え!? 今何て? 結婚って言ったわよね?
「ひとつ確認させて! けっこんって血痕じゃないわよね?」
「それじゃ俺が血まみれになりそう……ってもちろん、生涯のパートナーって意味の結婚だよ」
「何でこのタイミング?」
「い、いや何だか偶然とか縁とかが重なった今なら言えるんじゃないかって思って……」
「どさくさに紛れてってこと……」
「そういうわけじゃ……」
「最後にひとつ確認させて! っていうか言わせて」
今度は私が一呼吸置く。そして……。
「遅い!! いつまで待たせるのよ。私、おばあちゃんになっちゃうんじゃないかって心配してたんだから」
正直ムードもへったくれもあったものじゃないし、これが映画のワンシーンだったら間違いなくカットだわ。でも……彼の口から結婚してほしいと言ってくれたのは素直に嬉しかった。
「そ、それじゃぁ……」
「何泣きそうな顔してるのよ。答えは最初から決まってる……。前に釧路湿原で言った言葉覚えてる?」
「あぁ」
「じゃあ改めて……ちゃんとハッピーエンドにしてよね!」
「もちろんだよ、京子!」
そう言うと同時に彼が私を抱きしめた。あぁそうだった、私はこの温もりに何度助けられて来ただろうか。撮影が上手くいかなかった時、プレッシャーに圧し潰されそうになった時、ピンチの時には必ずアナタが傍にいた……。初めて札幌で出会ってからずっと。
「オホン!」
不意に店長がわざとらしく咳払いをした。そうだった……ここはお店だった。
「盛り上がっているところ失礼します。そろそろ良い頃合いかと思いまして」
そう言うと店長はあらかじめ用意していたかのように奥からお皿を持ってきた。
「こちらは本日のスペシャルメニューでございます。やはり朝比奈さんには赤が良く似合うと思いまして」
目の前には普段とは違う綺麗な装飾が施されたお皿が置かれ、その上には真っ赤な苺がたっぷりと入ったフレジェが乗っている。表面はさらに苺やベリーでできたムースで覆われている。フレジェって確かタルトペイザンヌと同じでフランスのケーキだったかしら? そしてお皿の隣には小さな小箱が添えられている。
「これは……」
私がそう言うのと同時に彼が小箱を開ける。そして入っていた指輪を私の左手の薬指にはめた。指輪の中央には赤いルビーが埋め込まれている。
「ルビーには情熱とか勇気、勝利って意味が込められているらしい。映画監督の京子にぴったりだと思ってさ。それに永遠って意味もあるらしい。その意味の通り、これからもずっと京子の隣で一緒に歩いていくことを誓うよ」
ずっと待っていた彼からの言葉……。少しでも気を抜くと涙がこぼれてしまいそうになる。
「嬉しい……」
それを隠すために左手の薬指に収まった指輪を顔の高さまで挙げて光に照らして眺める。
「綺麗ね…………って、ひとつ確認させて! 何かおかしくない? このタイミングでケーキと指輪が出てくるって……。もしかして最初から店長も一枚噛んでいたってこと??」
彼と店長の顔を交互に見渡す。どさくさに紛れて実施したのかと思ったらいつの間にこんな打ち合わせをしていたのかしら……。
「さてどうなのでしょう? でもこれで正真正銘の奥さんになったね、奥さん! おめでとう!」
語尾に奥さんと付けるのは店長の口癖なのだけれど、今日はやたらとそれが多いと思ったらこういうことだったのか……。何だかしてやられた感がないでもないけれど、アナタが私のことを思ってしてくれたことなのだからまぁ良しとしよう。
「ありがとう! 一生大切にするわ」
「うん、これからもどうぞよろしく!」
11月27日。この日はステラマリスのオープン記念日。それに加えて私達の大切な記念日となった。私はきっとこの日のことを忘れることはないだろう。アナタと一緒ならきっとこれから先もどんなに不可能だと思える事でも可能にしていける。そう、いつかのブルーローズのように……。
ステラマリスには今日もゆったりとした優しい時間が流れている。
「店長、コーヒーのおかわりをいただけるかしら?」
「もちろん、喜んで!」
fin
あとがきという名のいいわけ
皆様、こんばんは、sayです。今回のssは何と、ステラマリスさん&北へ。あきさんとのコラボが実現しました!
時を遡ること数か月前……。2024年11月2日。ご存じの方も多いと思いますが、札幌某所で「北へ。ナイト」というイベントが開催されました。そのイベント内でステラマリスさんが大きなケーキを提供して下さりました! ステラマリスさんといえば、北へ。DDに登場したケーキ屋さんで、20数年が経過した今でも営業を続けていらっしゃる、北へ。ファンにとってはレジェンド級のお店です。
今回、この北へ。ナイトに参加するにあたり、ホームページ作成メンバーで話し合っていたことがありました。それは……せっかく札幌に行くのだから是非ともステラマリスさんに寄ってケーキを食べよう! と。
しかし、ただケーキを食べるだけなら普段の聖地巡礼と大差ありません。そこで、ダメ元で、イベントの半月ほど前に店長さんにアポを取って11月2日のイベント前にお話をさせてもらえる時間を作っていただきました。
そして当日、店長さんとお話をさせていただき、今回ステラマリスさんの開店25周年ということもあり、応援ssを書かせてもらえないかとお願いしました。とても話しやすい店長さんで快くOKしていただけました。
そんなわけで、北へ。DDの京子さんとステラマリスさん、そして店長である隅田さんが登場するssを書かせてもらいました。店長のX(旧Twitter)での口癖である「~だよ、奥さん!」も使わせていただきました(笑)
むしろその口癖である奥さんからヒントを得て、結婚エピソードが生まれました(笑)
設定としては北へ。DDのハッピーエンドから数年後のお話で、映画監督となった京子さんと、その撮影助手というか、マネージャー的な存在になった主人公のお話です。
しかし、せっかくのステラマリスさん応援企画なのに自分の拙いssだけではどう考えても役不足だなぁ……と分かり切っていた問題にぶつかりました。そこで、またまたダメ元で今度は北へ。あきさんにssの挿絵の依頼をさせていただきました。
お忙しい中、快く引き受けて下さり、今回のコラボ作品が完成したわけです。
出来上がってきたイラストの京子さんが何とも自分の好みのどストライクでした!
今回ステラマリスの店長である隅田さん、イラストを担当してくれた北へ。あきさんには感謝してもしきれないほどお世話になりました。
そしていつもssを読んで下さっている皆様、本当にありがとうございます! 皆様あってのssです。今後もスローペースではありますが、北へ。ssは書いていきたいと思っていますので、今後ともお付き合いの程、よろしくお願い致します。本当にありがとうございました!
2025.4月 say
【北へ。あきさんからのコメント】
始めましての方は始めまして、知っている方はこんにちは。北へ。あきといいます。
今回sayさんの依頼で、京子ちゃんのイラストを描いてみました!
背景は、SSに登場する札幌の「ステラ☆マリス」さん。
京子ちゃんと同じく、タルトペイザンヌを食べたことがありますが(イラストのケーキはその時撮影したもの)
あれ本当に美味しいんですよねぇ。
表面のカリッとした食感と、中の柔らかいタルト部分とのギャップ、同時に口の中に広がる風味・・・
久しく食べてないので、このイラストを描きながら「次札幌行ったら必ずステラ☆マリスに行ってタルトペイザンヌを食べよう」と決意しました。
閑話休題。
SSの2人はゲームでハッピーエンドを迎えて数年後の2人です。
イラストの京子ちゃんもそのつもりで(描けているかはともかく)、ゲーム中より少し年令を重ねたように描いたつもりです。
京子ちゃんが登場した北へ。DDが発売されたのは2003年、20年以上経つうちに札幌の街は大きく変わりました。
DDに登場したお店も徐々になくなり、エスタや4プラと行った大きな商業ビルですら建て替わっていく中、
当時のケーキを出す店が未だあるということは、本当に幸せなことなのかもしれません。
そんな時の流れを感じながら、少し大人になった京子ちゃんと「ステラ☆マリス」さんの変わらない姿をイラストにできたことを、とても嬉しく思います。
このイラストが、見てくださった皆様の思い出を呼び起こしたり、新たな「北へ。」の旅へのきっかけになれば幸いです。
最後に、今回イラストを描く機会を下さったsayさん、本当にありがとうございました!
また、ここまで読んでくださった皆様にも、心より感謝申し上げます!
【ステラマリス店長、隅田さんからのコメント】
二十年も前に参加させていただいたコンピューターゲームと言うんですか、その中にうちの店が出ていたおかげで、今でもファンのかたが訪ねてきてくれます。
日本中から来られるのはゲームの力、驚くばかりです。北へ。のおかげで楽しい出会いがたくさんあるのはうれしいかぎりです。
登場したケーキたちもやめられませんね。
これからもこのご縁を大切に、いつまでも店があるように頑張ります。