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北へ。アンソロジー

<君と北へ。>

 君と北へ。(札幌編1)

「そろそろこの辺で一度休憩しようか」
 ここは道の駅・樹海ロード日高。樹海ロード日高は札幌・帯広方面をアクセスする国道274号と、旭川・苫小牧方面をアクセスする国道237号のちょうど分岐点にあり、峠の出入り口にあるので多くの旅行者に利用されている。また、道の駅の建物の中にスーパーマーケットやリカーショップ、喫茶店やそば処などもある。
「道の駅というよりまるで小さな街みたいですね」
「ここは以前明理がデザートコンテストに優勝して小樽に旅行に行った帰りに立ち寄ったよね」
「うふふ……」
「??どうしたの、明理?」
「いっ、いえ、以前のあなたのことを思い出しちゃって…」
 明理はクスリと笑った。
「えっ?それってもしかして車の鍵をインロックしちゃったこと?そんなのまだ覚えていたんだ」
「何でもできちゃうあなたでもああいうことがあるんだなって思っただけですよ。わたしなんかいっつもドジばっかりだから…」
「あっ、しまった!」
「うあ、ど、どうしたんですか?急に!?」
「車の鍵が……」
「ま、まさかまたインロックしたんじゃないですよね…?」
 不安そうに明理が尋ねる。
「な~んてね。冗談だよ。ごめん、驚いた?」
「…ひどいです。ほんとに心配したんですよ、それなのに……」
 明理は今にも泣き出しそうだ。
「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ……」
 すかさず明理に駆け寄る。
「フフフ、嘘です。さっきのお返しです。これでおあいこですよ」
 明理が悪戯っぽく答える。
「やられた……」

 数時間後……。
「ふぅ、お疲れ様。ここが今夜泊まるホテルだよ」
「運転お疲れ様でした。すっかり遅くなってしまいましたね」
 ここはホテルニューオータニ札幌。
 札幌駅・大通公園・時計台・旧北海道庁などにも徒歩で十分行ける距離にあり、札幌観光の拠点として最適な場所に位置している。
 不意に明理が照れくさそうに尋ねる。
「あのぅ、お部屋の方は…?」
「もちろん一緒だよ。って一緒に住んでるんだから当たり前だと思うけど?」
「そ、そうですよね。何だか緊張しちゃって…。」
 明理はかなり動揺しているようで、落ち着きがない。第三者が見るとかなり挙動不審に見えているに違いない。
「と、とにかく部屋に行こうか……」
「は、はい…」
 フロントの係員の案内で二人は部屋に到着した。
「今日は結構移動したから疲れたね。明理は大丈夫?」
「はい。あなたと一緒に旅行してるのがうれしくて疲れている暇なんてないです」
「ありがとう、そう言ってもらえるとうれしいよ。来た甲斐があったよ。俺も明理と一緒に旅行できて幸せだよ」
 たちまち明理の顔は真っ赤に染まった。まるでショートケーキの上のイチゴのようだ。
 明理はこの手の言葉に全く免疫がない。確かに家事やバイトに追われる生活ばかりしていたのだから無理もないかもしれない。
「わ、わたし、シャワー浴びてきますね」
 逃げるように浴室に駆け込んだ。
「相変わらずかわいいなぁ……」
 彼もシャワーを浴び終わり、一日の疲れをとるためにベッドに入る。
「それじゃ、そろそろ寝ようか。電気消すよ」
「はい、おやすみなさい」

 電気を消してからどれくらい経っただろうか。ふと明理の方を見てみると布団の中で何やらモゾモゾしている。
(どうしたんだろう…。寝付けないのかな?)
「○○さん、まだ起きてますか?」
「うん、どうしたの?」
「はい、何だか眠れなくて…。あのう、そっちに行ってもいいですか?」
「えっ?」
「ダメ……ですか?」
「いいよ。ここで嫌と言える男がいたら会ってみたいよ」
「それじゃぁ、お邪魔します」
 明理は彼のベッドにもぐり込んだ。
「ごめんなさい。無理を言ってしまって」
「そんなことないよ。明理ならいつでも大歓迎だよ」
「変なこと考えてないですよね…?」
「ハハ、そんなこと考えてないよ。それに変なことってどんなこと?」
「うぁ、そ、それはですね…、そのぅ…、もう!意地悪ですね!」
「ごめん、ごめん。でもね、俺の隣りはいつだって明理の特等席なんだよ」
 そう言うと彼は明理の手を握った。その手からは彼の優しさや温かさが伝わってくる。
(わたし本当にこの人に出会えてよかった…)
「ん?明理?」
 明理は安心したのか眠ってしまったようだ。その寝顔はとても愛らしく、彼にとってはまさしく天使だった。
「おやすみ、明理」
 そう言って彼は明理の頬に軽くキスをした。
 そして彼もまた眠りに就いた…。

「おはよう。昨日はよく眠れた?」
「はい、おかげさまでぐっすり眠れました」
「それじゃ、札幌観光に出掛けようか。まずはどこから行こうか?」
「札幌といえばやっぱりあそこです。行きましょう」
 明理に引っ張られてたどり着いたのは札幌時計台。
 1878年(明治11年)に現在の北海道大学の前身、札幌農学校の演舞場として建てられた建物である。
「時計台を見ると札幌に来たんだと実感できますね。わたし北海道に住んでいながらテレビと絵葉書でしか見たことなかったんです。だから何だかうれしくって…」
「うん、確かに札幌といえば時計台、時計台といえば札幌ってイメージあるよね」
 北海道には本当に様々な観光名所がある。しかし、地元に住んでいるから逆に「いつでも行ける」と考えてしまい、なかなか足を運ばないものなのかもしれない。
「さて、次はどこに行こうか?」
「お友達から聞いたことがあるんですけど、なんでもほとんどの北海道のお土産や特産品が置いてあるお店があるそうですよ」
「へぇ、それは凄いね。行ってみようか」
「はい、あなたならそう言ってくれると思っていました」
 明理の不慣れな道案内で何とかたどり着いたのは中央区狸小路に位置する“たぬきや”という店だった。
「ありました。ここです」
「場所が狸小路だけあって店の名前もたぬきやなんだね。それじゃしばらく自由行動にしようか。買い物が終わったらたぬきや入り口に集合ってことで」
「わかりました。それじゃわたしはまず二階に行ってきますね」
 二人はそれぞれに店内を見て回った。
 そして、先に買い物を終えた彼は入り口で明理を待つことにした。
 しばらくして買い物を終えた明理が彼のもとへ駆け寄って来た。
「○○さん、おまたせしました」
 そのときだった…。
 ドン!!!
 一瞬明理には何が起こったか理解できなかったが、目の前に明理と同じく尻もちをついている女の子をみて我に返った。
「ご、ごめんなさい。お怪我はありませんか?」
 心配そうに明理が女の子に駆け寄る。
「わたしこそごめんね。あなたも怪我はない?」
 深々と帽子をかぶったその女の子はにこりと微笑んで答えた。
「はい、わたしは全然大丈夫です」
「そう、よかった。それじゃ」
 そういって女の子は立ち去った。
「明理、大丈夫?」
「はい、平気です。でもあの人どっかで…?(気のせいよね、札幌に知り合いなんていないし…)」
「あれ?明理、携帯落としてるよ」
 先程ぶつかったときに落としたのだろうか、明理の足元に携帯電話が落ちている。
「いえ、わたしのじゃないですよ。さっきの人が落としていったみたいですね」
「困ったな、このまま放っておくわけにもいかないし、とりあえずこの辺で交番でも探して届けようか?」
「そうですね。それがいいと思います」
 明理はその携帯を拾うと、彼と共に交番を探して歩き出した。しかし二人とも札幌の街に詳しいわけもなく、なかなか交番は見つからない…。
 そのときだった。
 拾った携帯が鳴った。どうやら公衆電話からのようだ。
「きっとさっきの落とし主からだよ」
「そうですね。それじゃぁ出てみます」
 明理は通話ボタンを押した。
「もしもし……どちら様でしょうか?」
「わたし?わたしはその携帯の持ち主だよ」
「よ、よかったです。わたしさっきあなたとぶつかった原田と言います。どうやらそのときに携帯を落としたみたいで……」
「あぁ、さっきの女の子ね。よかったぁ、一時はどうなるかと思ったわ。で、原田さんだっけ?今どの辺にいるの?」
「えぇっと、そうですね、△×○ビルというのが見えますが……」
「なるほど、じゃぁそこからもう少し行ったところにさっぽろテレビ塔が見えるでしょ?」
 明理は周りを見回してみた。
「あ、はいあります、あります」
「じゃあテレビ塔の下で待ってるから来てもらえないかな?ごめんね、携帯拾ってもらっただけじゃなくて持って来いだなんて申し訳ないんだけど」
「い、いえ、とんでもないです。ぶつかったのはこっちですし、すぐに行きますから待っていてください」
 そう言って明理は電話を切った。
「○○さん、と言うわけで今から携帯を届けに行きたいのですが…」
「うん、それじゃ行こうか、相手を待たすと悪いしね」
「あっ、名前聞くの忘れました!」
「……。とにかく行けば何とかなるんじゃないかな」
「そうですね、それじゃ急ぎましょう」


あとがきという名のいいわけ

 皆さま、こんばんは。sayです。今回は君と北へ。札幌編1ということで、大昔に書いたssを引っ張り出してきて掲載しているわけですが、今回は時計台や大通公園周辺が舞台となっています。狸小路のお土産屋さんは昔自分が訪れた場所なのですが、現在もあるのでしょうか?
 毎回書いていますが、15年近く昔に書いたこのssを読み返してみると、何ともこっ恥ずかしい気分になりますね(笑)
 ちなみにこのssを書いていた当時はすでに北へ。DDの全ヒロインを攻略済みだったのですが、自分が書く初めてのssに明理を選んだのは何故だったのか、自分でも謎です(笑)
 15年前の記憶なので定かではありませんが、おそらく一番最初にクリアしたのが明理だったように思います。あれ?スオミだったかな?(笑)
 何となく明理だと話を膨らませやすそうだなと思った記憶があります。でもDDで一番好きなのは京子というのは秘密です(って、HPのプロフィールに書いてますねw)
 この後、札幌編2へ続くわけですが、2では新たにあのヒロインが登場しますのでお楽しみ!(してくださっている方がいれば非常に嬉しいです)
 それでは、次回ssでまたお会いしましょう。皆さまあってのssです!

                      
2020.4月  say

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