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夕焼け堂のターニャさん

夕焼け堂ターニャさん クリスマス番外編

夕焼け堂のターニャさんクリスマス番外編
~クリスマスだよ、全員集合!?~(後編)

「それじゃ俺はコイツを送ってきますので、これで失礼します」
 時刻は21時30分を過ぎようとしていた。
「え~、あたしも二次会行きたいなぁ」
 プク~っと頬を膨らませとんぼちゃんがイジけながら呟く。
「黙れ未成年。付き合ってやる俺の身にもなってみろ」
 とんぼちゃんの首根っこを掴みながら一ノ瀬君が愚痴る。
「すいません、一ノ瀬君。とんぼちゃんをよろしくお願いしますね」
 私は一ノ瀬君に深々と頭を下げた。
「了解しました、店長。コイツは責任持って送り届けますので。それでは皆さん、今日はありがとうございました。俺達はこれで失礼します」
 一ノ瀬君は軽く会釈をすると、とんぼちゃんを引っ張って地下鉄の方へ歩き出した。
「こちらこそ楽しかったよ。またな」
 そう言ったハヤカに続き、皆それぞれに挨拶を交わす。
「皆さ~ん、ありがとうございました~」
 一ノ瀬君に引っ張られながらとんぼちゃんが手を振っている姿が徐々に小さくなっていった。
 二人を見送り、二次会の場所に向かい夜の札幌の街並みを歩く。地面を踏みしめるごとに、ギュッギュッと足元に積もった雪が音を立てる。
 大通り公園の通りまでやって来ると、そこはまるで別世界に迷い込んだかのように、様々な色に光り輝いていた。
 ホワイトイルミネーション……。この時期になると、大通り公園一帯が光のイルミネーションに包まれ、幻想的な光景が私達を楽しませてくれる。
 若い人達の間では、ホワイトイルミネーションカウントダウンで年越しのキスを交わした恋人は永遠の愛を約束されるというジンクスがあるぐらいだ。私と大和さんもここで年越しのキスを交わしたのは秘密です……。
 大通り公園を後にし、しばらく歩くと目当ての店に到着した。店の入り口には「ナイトクラブ・ブルーミン」と看板が挙がっている。こういうお店は初めてです。そもそもどういうお店か分からないと言った方が適切かもしれません……。
「あの……ハヤカ?ここはどのようなお店ですカ?」
 少し不安になり、ハヤカに問いかける。
「あ、あぁそうだな……何と言ったらいいか、説明が難しいんだよな。と、とにかく入れば分かるさ…」
「大丈夫だと思いますよ。じゃあ入りますよ」
 聖慈さんが、先頭を切って店のドアを開けた。
「いらっしゃ~い!」
 店に入ると、筋肉質な体格の良いお姉さん??が甲高い声で出迎えてくれた。
「ハ、ハヤカ……!?」
 私は驚いて反射的にハヤカの後ろに隠れてしまった。
「あら~、隠れるなんて随分ご挨拶ね~、可愛いお嬢さん。大丈夫よ、取って食ったりしないから」
 その体格の良い男性(女性なのでしょうか?)は先程とは違い、野太い声で言った。
「ごめん、ターニャさん驚かせて」
 聖慈さんが言った。
「ここはね、簡単に言うとオカマバーって言うのかな?オカマのホステスさん?が接客してくれるお店なんだよ」
 聖慈さんが言葉を続けた。
「あらや~ねぇ、聖慈ちゃん、オカマじゃなくてオネェって言ってくれるかしら?」
「ご無沙汰してます、本郷さん」
「こらこら、ここじゃママとお呼び!っと、それはさておき、立ち話も何だから早く座った、座った。5名様ご案内~!」
 ママさん?がそう言うと、フロアから「喜んで~!」という、オネェさん?達の掛け声が聞こえてきた。
「何だか楽しそうなところだね~」
 瑞穂さんはワクワクした様子で店内を見回している。そういえばまだ、ミニスカサンタの衣装のままだったのですね……。
「びっくりしただろ?ターニャ。あたしも初めて来たときは驚いたよ、はは」
 ハヤカが私を気遣って声を掛けてくれた。
「実はさ、ここのママが聖慈さんの師匠なんだよ」
 え?今何と言いましたカ?聖慈さんの師匠??ということは、聖慈さんもオネェさんなのでしょうカ?
「いやいや、違うから!」
 私の思っていることが理解できたのか、即答でハヤカがそれを否定した。
「師匠といっても建築士の方だよ。あのママ、ああ見えて一級建築士の資格を持っていて本職は建築士なんだよ」
 ハヤカが解説をしていると……、
「あら、もしかしてわたしのウワサでもしてたのかしら?隣り、失礼するわね」
 ママさんが私達の座っているテーブルにやって来た。
「改めまして、こんばんは。ブルーミンの店長の本郷よ。でもここではママって呼んでね!約束よ」
「挨拶が遅れました、私は神楽坂ターニャと申します。どうぞよろしくお願いします」
「これはご丁寧にどうも。ターニャちゃんね。いい名前ね~。ま、ここの従業員って見た目はこんなだけど、良い奴ばかりだから楽しんで行って頂戴ね」
 そう言うとママさんは奥にあるステージに向かって歩き出した。
「よっしゃ、野郎共!ここらで一曲いくわよ!曲は“MORE”」
 ワ~っとお客さんから完成が上がる。
「よ、待ってました!」
 瑞穂さんがノリノリで合いの手を入れる。もう何だか常連さんのようです……順応力高過ぎです……。

『♪私の夢は夜に咲~~~く~~~♪』 
 ママさんが歌い終わると一層大きな歓声が沸き起こった。
「ありがとうね~」
 そう言ってお客さんに手を振りながら再びこちらのテーブルにママさんがやって来た。
「楽しんでいただけているかしら?」
「もちろんですよ。素敵な歌でした」
 大和さんが手に持っていた飲み物をテーブルに置きながら答えた。ちなみに大和さんは運転手のため、ノンアルコールのカクテルを飲んでいます。私はというと、大和さんに申し訳ないと思いながらもカシスオレンジをいただいています。普段はあまりお酒は飲まないので、何だかすでに少し酔っているかもしれません……。
「あら、ありがと。でもわたしの歌はここじゃ2番ね。以前ここで働いていた娘(こ)がいたんだけど、さっきの歌はその娘の十八番だったのよ。後にも先にもわたしが知っている限りじゃあの娘の歌が一番だったわ」
 少し遠い目でママさんが言った。そしてさらに言葉を続けた。
「その娘にはね、夢があったのよ、自分でインテリアの店をしたいっていうね。そのためにはお金が必要だった。けど、私達みたいな半端者はどこに行ったって数奇な目で見られる……なかなか居場所がないのよね。ここで働いている連中もみんなそうよ。でもそんなわたし達にだって夢や、やりたいことはある。そんな連中のためにここ、ブルーミンはあるのよ」
 ママさんはしみじみと話すと、テーブルに置いてあったウィスキーをグイっと飲み干した。
「でもあの娘はね、立派に夢を叶えたのよ。札幌で“白いトマト”っていう雑貨とインテリアの店をオープンさせたのよ。聖慈ちゃんから聞いてると思うけど、わたしってばこう見えても一級建築士の資格も持ってるからお店を建てるお手伝いをさせてもらったのよ。もし機会があれば行ってみるといいわ」
 そう言って、住所の書かれた名刺を渡してくれた。
「言っておくけど、その娘はわたしみたいなオッサンじゃなくて凄く綺麗だから驚くわよ~。って誰がオッサンじゃい!」
 ワハハと野太い声で笑いながらママさんは席を立った。
「あら、アナタ良く見るとなかなかわたしの好みだわ。そこの個室でわたしと飲まない?」
 今度は大和さんに猫なで声を出しながらママさんが擦り寄って来た。
「ダメです!大和さんは私の旦那様です!!」
 私はグイっと大和さんとママさんの間の席に割って入った。もしかして私、結構酔っているかもしれません……。
「アハハ、いいわね~。やっぱり女は強くなくっちゃね!それじゃターニャちゃん、ゆっくりしていってね」
 ママさんはそう言うと別のお客さんのテーブルに移動した。
「言うときは言うんだな、ターニャも」
 ハヤカがニヤニヤしながら悪戯っぽく笑っている。
「もう、ハヤカ…ハズカシイです……」

「それじゃ、また皆で来てよね、待ってるから。今日はありがとね~」
 ママさんに見送られブルーミンを後にする。
「最初は少し驚きましたけど、楽しかったですね」
「ああ、あたしも最初はターニャと同じでビックリしたよ。でもあの店の人達ってさ、みんな活き活きしてるんだよな。自分に出来ること、やりたいことを一生懸命にさ。それを見てたらあたしも頑張らなきゃなって、元気をもらえる気がするよ」
 ハヤカの言う通り、皆自分の夢のために一生懸命頑張っていたのが伝わってきたように感じた。私ももっと頑張らなきゃって気持ちが沸いてきたような気がします。
「あれ?そういえば瑞穂さんは?」
 北海軒の近くのパーキングに停めてある車に向かう途中で、瑞穂さんが居ないことに気が付いた。
「ああ、アイツならブルーミンに馴染んでて、良く分からないけどママと一緒にお客さんの接客してたからそのまま置いてきた」
 特に気にしていないような口調でハヤカがさらっと言った。
「えっ?大丈夫なのでしょうか?」
 私は少し心配になって聞き直した。
「アイツのことだから大丈夫だろ?ははは」
 確かに瑞穂さんなら問題ないようにも思いますが……。瑞穂さん、良いクリスマスをお過ごし下さいね……。
 そんなことを話していると、フワフワと空から雪が舞い降り出した。
「お、雪が降り出したね。ホワイトクリスマスだね」
 振り出した雪を見て、大和さんが言った。
 北海道のような雪国に住んでいれば、正直雪なんて取り分け珍しくはないかもしれない。でも、今夜はクリスマスだけは舞い降りてくる雪が何だか特別なもののように感じてしまう。
「ハヤカ、聖慈さん、今日はありがとうございました。おかげで素敵なクリスマスを過ごすことができました。私も新しい目標に向かって頑張っていこうと思います」
「あたし達も楽しかったよ、ありがとう。目標ってあの件だよな。あたしも聖慈さんも今まで以上に協力させてもらうから一緒に頑張ろうな」
 ハヤカと聖慈さんは優しく微笑んでくれた。
「ハイ、よろしくお願いします。お二人の力は必要不可欠ですから。今後ともよろしくお願いしますね」
 こうしている間にもしんしんと雪は舞い降り、積もってゆく。だけど私の心の奥に灯った小さな火種(決意)は消えることなく確かに光を放っている。今の私にどれだけのことが出来るかは正直分からないけれど、支えてくれる仲間がいればきっとどんな事だって頑張れる、そう強く思えた。
 皆さんにも素敵な幸せが舞い降りますように……。

Fin

あとがき(という名のいいわけ)

 皆様、こんばんちは。sayです。
 今回はクリスマスということで、夕焼け堂のターニャさんに登場(登場予定)するキャラでクリスマスssを書いてみようとうことになり、このssが出来ました。
 実を言うと、クリスマスが近かったので、12月に入り、勝手に思いつきで京子ss、「いじっぱりなクリスマス」を見切り発車で書いていました。それが自分としては珍しく思いの外早く完成したので、12月5日にHPに更新することになりました。
 個人的にはそれで結構満足だったのですが、マスター(管理人)の嘉麟さんから「夕焼け堂メンバーでクリスマスパーティやりましょう!」と提案(無茶振りw)が来ましたので、クリスマス当日までにもう1作ということになり、このssが完成しました(笑)
 冒頭でも書きましたが、今回のssは一夜限りのクリスマスの奇跡(笑)ということで、本編ではまだ出会っていない葉野香ととんぼや瑞穂がすでに顔見知りになっています。この辺は本編の方では別の出会い方をする予定となっているので、乞うご期待。(って一体何人の方が読んで下さっているか不安ですw)
 もう少し補足をしておくと、葉野香の恋人的な立ち位置で登場した支倉聖慈ですが、このキャラは昔書いたss、「札幌すすきの25時」に登場するジャケットの彼です。
 個人的には昔から(10数年前からw)葉野香とこの彼は良い関係になって欲しいという思いがあったので、今回正式に恋人同士という設定にさせていただきました。(WI主人公推しの方、すみません)
 今回、前編と後編の2部構成になってしまったのですが、ほんとは前編の北海軒で終了予定でした。そこへ急遽、2次会ということで、「ブルーミン」にお邪魔することとなりました。「白いトマト」「持ち歌がMORE」と来れば、北へ。DDファンなら分かっていただけたと思うのですが、まふゆですよね?
 今回は敢えて名前は明かしていませんが、バレバレでしたね。もしかしたら今後のターニャさん本編に登場するかもです。
 そして、最後の方でターニャたちが話していた目標というか計画?は本編の5話?あたりで明らかになると思いますのでお楽しみに(もう一度言いますが読んで下さっている方いるのかな……)
 出来れば本編では少しずつWIやDDのキャラ達を登場させていきたいと考えています。基本的にはWIの10年後という設定ですが、DDキャラも+10歳(温子なら30歳ですね)歳を重ねているという設定です。
 それにしても読み返してみると、大和さん影薄いですね(笑)
 長々と書いてしまいましたが、これからも超ゆっくりなペースではありますが、少しずつ更新していければと考えていますのでよろしくお願いします。読んでくれる皆様あってのssです。
 ここまで読んでいただきありがとうございました!それではまた……。

2019.12/24 say

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